【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
“夫婦”の生活

とはいえ、この人が子どもっぽい一面を持っていることに変わりはない。
週明け、諏訪さんは刈宿CMOと一緒に出勤してきた。
「ようやく会えたね、諏訪くん。うれしいよ」
「そうですか、気が合いませんね」
“鬱陶しい”と顔に書いて、デスクに鞄を置く。
デスクワークを始めていた私は、手を休めずふたりに声をかけた。
「おはようございます」
英国紳士のようなチェックの三つぞろいで決めた刈宿さんが、「おはよう!」とウインクをくれる。
それを胡散臭そうに横目で見ながら、諏訪さんも微笑んだ。
「おはよう」
今日、私たちが顔を合わせるのは、これがはじめてではないけれど。
「諏訪くん、さっそくなんだが助けてほしいんだ」
「仕事の話でしたら聞きますよ」
「僕が仕事以外の頼みごとをきみにしたことなんてあったかい?」
心外だと言わんばかりに、刈宿さんがウェーブのかかった前髪を払いのける。諏訪さんは冷静に、PCを起動させメールチェックをするという朝の日課を始めた。
「うさんくさい集まりに僕を参加させようとしたことがありましたよね」
「業界の未来を憂える有識者のパーティだよ。下の会議室で待っている。手があいたら来てくれたまえ」
諏訪さんの肩を親しげに叩き、刈宿さんは去っていった。心なしか足音までリズミカルで優雅だ。
「未来を憂える有識者に、パーティなんて開くひまがあるか」
肩のさわられた箇所をぱっぱっと払い、諏訪さんがため息をつく。
「十時から営業チームとの打ち合わせがあります。おそらく食いこむでしょうから、私が先に行きます。終わり次第合流してください」
「了解」
新たな一週間が始まった。

「ただいま」
自室にいると、彼の帰宅はドアが開く前にわかる。
「お帰りなさい」
水曜の夜、いつものように廊下で待ち構えていた私に、「わっ、びっくりした」と諏訪さんが目を丸くした。何度かやっているのに慣れてもらえない。
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