【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい～俺様エリートとかりそめ新婚生活～

じつは私は、帰宅してから諏訪さんが帰るまでの数時間、毎日のようにメイクで遊んでいたりする。これがまた楽しいのだ。
正解がよくわからないながらも、あれこれ調べながら動画やブログを参考に、自分の顔を塗っていく。正解がわからないから終わりもない。
「所要時間が読めないのですが……」
「スーパーが閉まる前であればかまわない」
「では、支度してきます」
私は一礼し、自室へ戻った。
ワンピースは頭からかぶるタイプなので、メイクの前に着る。濃いネイビーの、シンプルなツイードのワンピースだ。
言っておくと私は、花柄やフリルに囲まれていたいとは思っているけれど、それらを洋服として身に着けたいとは思わないタイプだ。
卑屈云々を抜きにして、どう考えても似合わないし、会社にも着て行けない。それでは私の思う“自分の趣味にふさわさしい存在”にはなれない。
私がなりたいのは、容姿や年齢や立場にしっくり合った装いを、無理なくまとえる人間だ。というわけで、第一歩としてこのワンピースを選んだ。
汚れないよう首周りをタオルでガードし、まさかこんなに本気で使うと思っていなかったドレッサーの前に座る。
眼鏡をはずし、鏡に鼻をくっつけんばかりにしてあれこれ塗る。化粧品カウンターのお姉さんによれば、私の肌はたしかにきれいらしい。
なにもしてこなかった反面、クレンジングで負担をかけることもなかった。そこに体質的な肌の丈夫さも加わり、『かなりいい状態』のとことだった。
人生、なにがいいほうに転ぶかわからない。
『ですので、下地をつけなくても、ファンデーションのみで乗りますし、崩れないと思います。これはかなりの時短ですよ、つけるのも落とすのも！』
というわけで教えてもらったとおり塗っていく。眉は書く必要がない。アイシャドウと口紅とチークだけだ。
まつ毛にかんしては成功したためしがないので、今日は省こう。
すべてを、教わったとおりに塗っていく。できるのはそれだけだ。アレンジとか足し引きとか、まったくわからない。