【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「……もっと成長したいので、ダメだったポイントも教えてくれませんか?」
うーんと眉根を寄せ、諏訪さんが悩む。
「しいて言えば、眼鏡が事務的すぎると感じたかな」
「わかります。ですがコンタクトレンズにはどうしても抵抗があって……」
「いや、フレームを変えたらどうかなって話。顔につけるものなんだから、メイクと同等の効果があってしかるべきだ。眼鏡にも意識を向けない理由はない」
なるほど!
「さっそく明日にでも買いに行きます」
「ダメだ。俺が一緒に行ける日じゃないと」
え……。
彼がお皿にフォークを置く。カチ、とかすかに音がした。
椅子に横向きに腰かけ、諏訪さんが身体ごと私のほうを向く。
「引っ越し以来、はじめてきみとゆっくり過ごしているけれど、俺は楽しい」
「は、あ、あの、わ、私も……」
どぎまぎして、無意味に髪やら顔やらをいじってしまう。
諏訪さんがおかしそうに笑った。
「やっぱり、一緒に暮らしてるんだから、一緒にいたい」
「……はい」
「それから、きみは触れたくないと言ったが、俺はよく似合うと思う」
「え?」
「“花恋”」
どきっとした。
条件反射で身体を硬くした私を見て、彼が困ったように微笑む。
「そう呼ばれるのは、やっぱりいや?」
無言で首を横に振った。
いやじゃない。なぜか。まったくいやじゃない……。
諏訪さんは返事を待っている。ごくっと喉を動かし、懸命に声を出した。
「いやじゃ、ないです」
本心かどうか見極めるみたいに、諏訪さんの瞳が私をじっと見つめる。
たったそれだけで、私は体温が上がり、汗ばんだ手を隠すため、ひざの上でぎゅっと握りしめないとならない。
やがて、彼が「よかった」とつぶやいた。視線が一度落ち、また戻ってくる。
「俺のことは、一臣と」
彼からもらう指示に、こんなに心臓がどきどきと落ち着かなくなることが、これまであっただろうか。
「はい……」
彼が、少し困ったように、だけどうれしそうに笑う。
そんな珍しい表情を見て、ああ、この人も照れたりするんだな、と思った。


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