【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
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決算月である。
追加機能の本公開を控えているモメント本体と違い、テックは半期予算もきれいに消化し、美しく年度を締められそうな空気だった。
……のだけれど。
「企画書を作ってくれないか。申請書レベルでいい」
同居して一か月がたとうとしている3月末、朝食の席で一臣さんが言った。
「期内の企画ですか、内容は?」
「今から説明する」
朝食のメニューは、日に日にクオリティが上がっていくオムレツ、スープ、サラダで固定だ。少しずつ具を変えながらも、これしか作ったことがない。
『やはりひたすら反復練習を行うことが、上達への道だと思うんです』
『きみ、わりと考えが体育会系だよな?』
あきれながらも、一臣さんは毎日同じものを食べても気にならないタイプとのことで、オムレツ三昧の日々にいやな顔ひとつせずにいてくれる。
ちなみに、彼のほうが上手だったのに、なぜ作らないのかというと。
『あまり……、楽しくなかった』
とのことだからだ。
『それなりにできることはわかった。きみがおいしいと食べてくれたのもうれしかった。だが、この分野で向上しようという気がまったく起きない』
しきりに首をひねっては、『すまない』と申し訳なさそうにしていた。
そんなこともあるのかと驚いたけれど、“好きじゃない”という感情をひも解くと、たしかにそういうことになるかもしれない。
“好き”も“好きじゃない”も、理屈ではないのだ。
『きみが気乗りしないときは俺が代わる』
『無理をするようなことじゃないですし。そのときは既製品でも』
朝食なんだし、抜いたっていい。
というわけで朝の支度は私が担当することになった。
「営業員を増やす……と。新たに採用するということですか?」
「刈宿さんが、以前泣きついてきただろう。あの話の続きなんだ」
食事のかたわら、メモを取りながら話を聞く。