【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「……その、私たちは、きっとうまくいくと思います」
「きみの口からそんな言葉を聞くのは、感慨深いな」
「なにが感慨深いんだい?」
一臣さんが勢いよく立ち上がったはずみで、チェアが転がり、派手な音をたてて背後の窓にぶつかった。
刈宿さんが湯気の立ったカップを手に、きょとんとして立っている。
私はなにを考えたのか、茶葉とカップを後ろ手に隠していた。やましさだけが強調され、なんの意味もない。
「大丈夫かい? おかしな空気が流れているようだが」
「いえ、いたって普通です」
平静を装い、一臣さんが椅子を引き戻し、もう一度座る。その様子を見守っていた刈宿さんが、「ならいい」と私に笑いかけた。
私の手元を指さし、ほがらかに言う。
「きみも休憩するところだったのかな。一緒にどうだい? 少し話をしたい」
「え……?」
「よかったら、今度あらためて食事でも」
「え?」
最後のは私でなく、一臣さんだ。刈宿さんは振り返り、目を丸くしている一臣さんに、そっくり「え?」とまねて笑った。
「なんだい? まさかボスの許可が必要なわけじゃないだろう?」
皮肉なのか、純粋におもしろがっているのか判別がつかない。
一臣さんも、きっと同じ理由から、リアクションを選びかねている。
ほとんど睡眠をとっておらず、疲労が顔に出ている一臣さんと対照的に、刈宿さんはきらきらと音がしそうな笑顔を私に向けていた。

夕方、モメント本体から一臣さんに呼び出しがかかった。
コアプラザが本公開直前で行き詰ったとのことで、原案者である彼が引っ張り出されたのだ。
営業部隊の統括を刈宿さんに、補佐を私に任せ、数駅離れた本体に行った一臣さんが帰宅したのは、深夜3時だった。
「お帰りなさい。お疲れさまでした」
出迎えた私を見て、見るからにくたびれた様子の彼が目を見開く。
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