【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「お断りするのも角が立ちますし、一臣さんの言うように、社内の人間関係という観点で、プラスもあると思いますので、私、行きます」
彼は慎重に、「うん」とうなずく。
「ですが、一臣さんとの食事以上に楽しくはないでしょうし、ずっと、ここにいるのが一臣さんだったらなあ、と考えていると思います」
言い終わってもなにも言ってもらえないので、終わったと認識されていないのかと思い、「以上です」とつけ加える。
一臣さんは視線を横のほうへやって、じっと黙りこんでいたかと思ったら、だしぬけに「起きよう」とベッドから降りた。
「合格ですか」
「そんな上から評価したりしないけど」
カーテンを勢いよく全開にする。ぎょっとするほど整った、きれいな身体に太陽の光が降り注ぐ。そんなに見せないで、とタオルケットをかぶせたくなった。
彼がコーヒーをぐいと飲み、「おいしいな」と満足そうに言う。
「よかった、新しい豆なんです。私はまだ飲んでないんですけど」
「なんだ、言ってくれたら……」
振り返ったとき、すぐうしろにいた私と目が合った。
なぜか、ちょっと不思議な空気が漂って、彼が言葉を詰まらせる。
「……残しておいたのに」
「いえ、新しく、いれますから……」
お互い、視線をうろうろさせる、妙な間が訪れた。
「あの、『評価したりしないけど』……なんですか?」
「ん? ああ……」
さっき途切れた言葉の続きを知りたい。
一臣さんがカップを見つめながら、少し迷いを見せて、口を開いた。
「……それが本当だったらいいなと願ってる、と言おうとしたんだ」
自分で聞いたくせに、その優しい声をまともに受け止められなかった。
クリーニングに出そうと、椅子の背にかかったスーツとワイシャツをせっせとまとめる。一臣さんの手が肩に置かれた。
私は動きを止めた。見上げたすぐ先に、一臣さんの顔がある。
目を合わせたまま、ゆっくりと、気づけば唇が触れそうな距離まで、彼が近づく。ほろ苦いコーヒーの香りがする。
< 54 / 142 >

この作品をシェア

pagetop