【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
そう、3本目!
無難なピンクベージュからはじまり、流行りをおさえたブラウン系ときて、顔を華やかに見せてくれるくすんだローズピンク。
一度意識がコスメに向くと、元来の分析ぐせが顔をのぞかせ、時間を見つけては情報収集するようになった。
色、質感、ブランドの特性など、さまざまな違いがあることを知り、実物で試してみたい欲求が芽生えているものの、化粧品売り場はいまだにハードルが高い。
許されるならすべて買い集めて比較表を作りたいくらいだ。だけどそれはさすがに目的を見失いすぎだとわかってもいる。
もともと浪費するほうでもないから、消費できる以上のものを買うのもためらう。
というわけで、店頭での会話を最小限にとどめるべく事前に徹底的に情報を集め、手に入れたのが新たな2本の口紅だ。
「そうです。ええと、新作だから欲しかったわけでなく、偶然なんですが」
彼女は持っていた巨大なメイクポーチをごそごそとあさり、さっと一本の口紅を取り出してみせた。そしてにやっと笑う。
「あ……、同じものですね!」
「めっちゃいい色ですよね! 数年前のクリスマスコフレの復刻なんですよ。いつか定番になると信じて待ってたんですーよかったーていうか春夏コレクションてどこもかわいい色味で攻めるのに、このブランドだけローズカラーのバリエーションとか、強気で惚れるしかなくないですか」
口を挟む隙がなかったので、だまって聞いていた私は、賛同を求められていることに気づき、「はい」とうなずいた。クリスマスコフレなるものについては、あとで検索しよう。
満足そうににこっと笑う彼女の頬は、紅潮している。
「あの、もしかして……」
「あっ、広報の福原です。福原あすか」
「福原さんは、もしかして、コスメオタクといわれる方々ですか?」
「はい、そうです!」
返答が潔い。
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