【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
きざなウインクを投げ、颯爽とフロアへ出ていった。
直前の使用者の名残が消えるのを待っているかのように、一臣さんは自分の椅子の横にじっと立ったまま座ろうとしない。
指でちょいちょいと招かれたので、そばへ行く。一臣さんが手を伸ばし、私の肩をさっと払った。刈宿さんに叩かれた場所だ。
「……どうしてそんな仲が悪いんです?」
「仲が悪いわけじゃない。本能的に受けつけないだけだ」
よけい救いようがない気がする。
ばつが悪そうに私から目をそらし、「父に候補日を確認してきた」と持っていた手帳を開いた。
「そのお電話をしていたんですね」
「引退したといっても、なんやかんやで忙しくしている人でね。ランチが気兼ねないかなと思ったんだが、きみのお母さんが飲める人なら、ワインでも傾けながらディナーでも、とのことだ。どうかな」
「母は酒豪です。ただ夜は制作をしたがる場合もあるので、スケジュールを聞いてみます。ちょうど今日、問題がなければ早めに帰って、実家に寄ろうと思っていたので」
「そうか、近いんだったな」
私はなぜか照れくさい気分で、「はい」と手をこすりあわせた。実家は神奈川だ。東京との境のあたりにあり、非常に便利だ。
「新規加盟店の刈り取りも軌道に乗ったし、俺も今日は早く帰って休むつもりだ。きみも定時前に上がっていいよ」
「あ、でも、それなら……」
言いよどんだ私に、「ん?」と一臣さんが眉を上げる。
「いえ、せっかく一臣さんが早く帰るのなら、私も家にいようかなと……」
虫みたいだと思いつつ、さらに勢いよく手をこすりあわせる。なにを親離れできていない子みたいなことを。
「おかしいですよね、会社でもずっと顔を合わせてるのに」
思わず自嘲し、恥ずかしくなってうつむいた。
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