【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
ふっと笑う声が聞こえた。肩に温かい手が触れ、見上げると、もうすっかり見慣れたはずなのに、毎度見入ってしまう微笑みがあった。
「俺とはいつでも一緒にいられる」
「そうですよね」
「今日はお母さんに会うといい。俺はたぶん、帰ったらすぐ寝てしまうし」
「はい」
ひとりで甘えたことを考えていたようで、恥じ入ってしまう。そのとき、肩に手が置かれたままであることに気づいた。
手を見て、腕をたどって、再び一臣さんの顔に行き着く。
目が合った瞬間、彼がなにを考えているのかわかった。おそらく彼も、そのときはじめて、自分がなにをしようとしたのかわかったんだと思う。
はっと目を見開き、まるで電気でも走ったみたいに私の肩から手を離した。
「あの、ごめん……ええと、油断した」
「いえっ、謝っていただくことでは、その……」
私も、と口走り、かあっと熱くなった顔を両手で隠した。
一臣さんが、数歩うろうろしてから乱暴に椅子に腰を下ろす。だいぶ無頓着な所作だ。なぜ座るのをためらっていたのか、忘れてしまったのかもしれない。
私もさっとデスクの前に戻った。
彼は前髪をかき上げ、PCを開くでもなく、ただ茫然と前を見つめている。
「だめだな、切り替えるのが、なかなか難しい。というより、変なときに切り替わって困る……」
「わかります……」
おかしな空気を払拭するように、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
今をときめく最先端の会社ながらも、なんだかんだ人はこの音を聞くと気分が引き締まるらしい。古くさい、ないとだらける、と廃止と復活をくり返している。
私たちも、身体に染みこんだなにかが反応し、同時にふうと深呼吸をした。
気分を新たに顔を見あわせ、それでも笑ってしまう。
「内密なんだが、本体に行くことになるかもしれない」
「え……」
モメント本体に。すでにテックのCOOである彼が行くとなれば、役員クラスであるのは確実だ。
ただのうわさだったものが、実現しようとしているのか。
「ご活躍ください。楽しみです」
「そのときは、必ずきみもつれていく」
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