【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
なんと答えるのが正解だったんだろう。
私なんて、と謙遜するのか、そんな、と慌てるのか。
ただこのときの私は、じっと私を見上げる一臣さんの瞳に吸いこまれるようにして、自然と口にしていた。
「……うれしいです。ぜひ」
結果として、間違ってはいなかったんだろう。
なぜなら、彼もうれしそうに笑ったから。

ソファで、母は「結婚」と私の言葉をくり返し、固まってしまった。
ひざに置いたソーサーの上で、カップが宙に浮いている。こぼさないかなとはらはらしていたら、母が再び動きだした。
紅茶をひと口すすり、満足そうにはあーっとため息をつく。
「花恋ちゃん、恋人ができてたのねえ」
「ごめんね、一緒に暮らしてるのも、だまってて」
「ううん。どうりできれいになったと思った。お化粧するようになったのね?」
「いや、それとこれとは別で……や、別でもないかな……?」
「似合うお化粧をしてもらって、お顔もよろこんでるね。お化粧は哲学が出るから。これはいいお化粧」
へえ……と母の顔を見つめた。私の生家でもある実家は、今では母がひとりで暮らしている。かつて事務所だった部分をアトリエにし、父の面影をほどよくやわらげ、彼の亡きあとも母はここで暮らすことを決めたのだ。
アンティークのレースや布地を集めるのは、彼女の仕事でもあり趣味でもある。家の中はそういったものがあふれ、“雑多”というまとまりを作り出している。
本人の装いも、そこに完全に調和している。
ウェーブさせた茶色のショートヘア、年齢相応に手をかけたメイク、リージェンシー・ロマンスものに出てきそうな、ウエストをきゅっと絞り、足がすべて隠れる丈のワンピース。
日傘が流行る前から外出時にはパラソルを差していた。彼女の職業を知らない人から見たら、ただの変わり者だっただろう。
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