【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
釘を刺すと、はじめて気がついたように「そうだ」と愕然とする。
言葉ほどに心配はしていない。母は浮世離れしているように見えて、根は実業家だ。社交性を存分に発揮して、欲しい情報を引き出すだろう。
自慢の母を、早く一臣さんに会わせたい。
そう思うと、緊張が半分以上を占めていた顔あわせが、楽しみになってきた。

仕事柄、レストランの情報は手に余るほど持っている。
情報しか持っていない私に対し、一臣さんは取引先の要人と、都内のあちこちで会食をしてきている。
互いの知見とデータを持ち寄って決めたのは、閑静な住宅街の中にある、一軒家を改造したレストランだった。
駅から遠いぶん静かで、紹介のない客は入れない。
母は歩くのが好きだし、一臣さんのお父さまはハイヤーを常用しているとのことで、距離は気にしないことにした。
私と母が最寄り駅で合流したとき、一臣さんから【父と先に席に着いてる】とメッセージがあった。これは予定どおりだ。どちらが先に着くかで気をもむことがないよう、最初から時間をずらしておいた。
母はレトロな茶色のセットアップを着ていた。シックなメリー・ポピンズといった感じだ。
「今日もすてき」
「ありがと。花恋ちゃんもすてきなワンピースねえ。よく似合う」
私が着ているのは、一臣さんが買ってくれたあのワンピースだ。
「一臣さんと一緒に選んだの」
「早く会いたいなあ」
女同士、きゃっきゃとはしゃいでいたら、10分の道のりはすぐだった。
レストランだと言われなければ確実に見落とすであろう、白い家の門をくぐる。今日は予約客は私たちだけのはずだ。
白と黒のお仕着せを着た男性が、私たちを奥の部屋へ案内してくれる。中は落ち着いたダークカラーの床材に、同じ色調の調度でしつらえた、上質なダイニングルームのような内装だった。
キャンドルの灯るテーブルについていたふたりが、いっせいにこちらを見る。
手前は一臣さん、奥は、上品なグレイヘアに口ひげをたくわえた男性。
お父さまだ。
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