【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
離れたくない
「どうしたんだい?」
顔を上げたら、テーブルの向こうで刈宿さんが首をかしげていた。
私ははっと姿勢を正し、途切れていた集中力を呼び戻す。そうだ、彼との食事の席だった。いけない、ぼーっとしていた。
「失礼しました。すてきなお店ですね、ここ」
「気に入ってもらえたならよかった」
会社から数駅離れたところにある、カジュアルなフレンチレストランだ。入店してからテラス席と屋内の席を選ぶことができた。
私はテラスにした。通りを挟んで反対側に、さらにカジュアルなダイナーがあり、その軒先の客を見ているのがおもしろそうだったからだ。
いろいろな人種が集まる場所らしい。巨大なプードルを2頭従えたプラチナブロンドの婦人や、まだ春だというのにタンクトップに短パンの、サンタクロースのようなおじさん。めいめい、金曜日の夕方を楽しんでいる。
「こういうお店がお好きなんですか?」
「意外かな?」
真鯛のポワレと鴨肉のコンフィ。シンプルなメインをそれぞれ頼んだら、彼がすかさず「シェアしたい」と店員さんに伝えた。お店はふたつの大きなプレートに、美しく半分ずつ2種類を盛って出してくれた。
「少し」
「個室でコースでもよかったんだけどね。そういうところで女性を緊張させるより、こういう店でくつろいでもらうほうが好きなんだ」
なるほど。お気づかいありがたい。
私はポワレを口に運んだ。おいしい。どうやって作るんだろう。魚に火を通しただけに見えるけれど、そんなに簡単ではあるまい。
下に敷いてあるものが柔らかくておいしい。ジャガイモだろうか。
「疲れていそうだね? 無理に誘って悪かったかな」
「あっ、いえ。その、どうやって作るのかなと」
「料理をするんだ?」
ええと、と言葉を探した。