【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
なによりこのワンピース、ウールこそ入っていないものの、ツイードなのでそろそろ暑苦しく見えてしまう。夏前に着られる最後のチャンスかもしれない。
……という判断だったのだけれど。
『あの……、まずいですか』
そう尋ねたときの一臣さんは、なにかとんでもないものを丸呑みしてしまったような顔をしていた。
『まっ……ずくはないが、気が進まない』
『お気に召しませんか?』
『いや。そうじゃない。それから、それを着ているときのきみは、すごくいい。ぜひ刈宿氏に見せてやりたい』
つまり、いいのか悪いのか。
私は困惑し、はっきりした答えが欲しいと目で訴えた。じろっと視線が返ってくる。一臣さんはむっと口を引き結び、まじめな顔を取り戻した。
『きみは“食事くらい”と言うが、花恋』
ここから件のご高説だ。最後まで聞いても、結局このワンピースでいいのかダメなのかわからない。私は困り果て、直接聞いた。
『要するに、ダメなんでしょうか』
『ダメなわけじゃない。きみが決めろ、ということだ』
『そんな……』
続きは飲みこんだ。
私は自力で気づかなければいけないのだ。彼の望みと、自分の希望に。
いやでも、これはちょっと違う案件のような?
一臣さんがシャワーを使う水音を聞きながら思案した。
だけど結局、ワンピースを着ていくことになった。自室でメイクをしながら、どの服に着替えようか悩んでいるうちに、家を出る時刻になってしまったからだ。
「左藤くん、次の飲み物はどうする?」
はっとした。刈宿さんがワインリストを差し出している。
またぼんやりしていた、いけない。
「お任せしてもいいですか、あまり詳しくなくて」
「もちろん。やはり疲れてるんじゃないのかい? 大丈夫?」
「今日は長いこと諏訪さんの文字と格闘していたので、そのせいかもしれません」
リストを眺めながら、刈宿さんがははっと笑った。
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