【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「本当にいつもご苦労さまだ。彼はキーボードでも持ち歩くべきだね」
「ひらめきを書き留めるのは、手書きが一番なんだそうです。実際彼のメモは、ただの思いつきがアイデアと呼べるものに変わるまでが記録されています。文字こそ難解ですが、非常に興味深い読み物だと思っています」
ついひと息に語ってしまい、彼が微笑みをたたえながらじっと私を見つめていることに、はっと気づく。
「饒舌だね?」
「あの、すみません、つい」
「そんなきみもいいよ。左藤くんは、もともと僕と同じ会社だったんだよね。申し訳ない、当時は知らなかったんだが」
「いえ、下っ端の新人でしたから」
「なぜ諏訪くんのアシスタントに?」
「声をかけていただいたんです。当時私はテックと本体をまたぐ秘書のようなことをしていまして、会議などで諏訪さんにお会いする機会がありました」
議事録を作るのも私の仕事だった。回覧し、訂正の要望があれば全員に周知したうえで調整する。修正があろうとなかろうと、毎回、一臣さんが一番返信が早かった。
あるとき『きみ、企画の人ではないの?』と彼が私を呼び止めた。私は、なにを言っているのかと首をひねった。
『ご覧のとおり、秘書です』
『そうじゃなくて、志望というか、マインドというか』
彼が言うには、企画の話を議事録にまとめるとき、“企画脳”のない人間が担当すると、たいてい頓珍漢なものができあがるのだそうだ。
私の場合、それがなかったらしい。
「企画志望だったのかい?」
「じつはそうなんです。ところが合併の混乱で育成制度が破綻し、研修中の所属のまま、人事部から出られなくなりまして」
「そんなことが……」
「それを知った彼は、『僕のもとで、最高レベルの企画に触れさせてあげるよ』と言い、私をアシスタントに指名しました」
小さな会社だ。一臣さんはCOOという立場でありながら、重要な現場には顔を出す。私は秘書時代と違い、彼に意見を求められることも多い。
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