【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
彼のメモを追ううちに見つけたほころびや、さらに発展させるアイデアを、清書したものと一緒に渡すこともある。彼はにやっと笑い、平然と採用したりする。
「恩人なのだね。どうりで口げんかばかりするわけだ。信頼があるんだな」
「いえ、そんなものは……」
落ち着かなくて、パンに手を伸ばした。さくっと皮がちぎれるロールパンだ。中はしっとりでふわふわ。
近所のパン屋さんに、こういうパンもあるだろうか。いや、いっそ……。
「どうしたんだい、しげしげとパンを見つめて」
「こういうパンを、自宅でも作れたらなと」
「パンを? 一人暮らしで?」
もうダメだ。衣食住にかかわる話題は避けたほうがいい。
べつに、一緒に暮らしていることを隠すよう一臣さんから言われたこともないけれど。だけど常識的に考えて、おおっぴらにすることでもない。
彼と微妙な関係にある刈宿さん相手であれば、なおさら。
私はパンの話題をどう決着つけようか悩んだあげく、「好きなんです」と言った。嘘ではない。ごはんも大好きだというだけだ。
刈宿さんは一瞬、言葉の真偽を確かめるような鋭い視線を送ったけれど、すぐににこっと、いつもの華やかな笑顔になった。
「じゃあ、今度はパンのおいしい店を探すよ」
「いえ、お気づかいなく……」
「また誘ったら迷惑かな?」
一臣さんの言葉がまた脳裏をよぎる。
言えたらいいのに。
だけど、なにを?
私たちは宙ぶらりんだ。すべての前提だった“結婚”を保留にしてしまった今、なんのために一緒にいるのか説明できない。
だけど離れるという選択肢も、お互いの口からは出ない。
目の前に横たわっている問題は、時間が解決してくれるものではないのに。
答えあぐねる私に、刈宿さんは軽やかに肩をすくめてみせた。
「すぐに断られなかったってことを、心の拠り所にするよ」
私はただ、あいまいな笑顔を返した。
「恩人なのだね。どうりで口げんかばかりするわけだ。信頼があるんだな」
「いえ、そんなものは……」
落ち着かなくて、パンに手を伸ばした。さくっと皮がちぎれるロールパンだ。中はしっとりでふわふわ。
近所のパン屋さんに、こういうパンもあるだろうか。いや、いっそ……。
「どうしたんだい、しげしげとパンを見つめて」
「こういうパンを、自宅でも作れたらなと」
「パンを? 一人暮らしで?」
もうダメだ。衣食住にかかわる話題は避けたほうがいい。
べつに、一緒に暮らしていることを隠すよう一臣さんから言われたこともないけれど。だけど常識的に考えて、おおっぴらにすることでもない。
彼と微妙な関係にある刈宿さん相手であれば、なおさら。
私はパンの話題をどう決着つけようか悩んだあげく、「好きなんです」と言った。嘘ではない。ごはんも大好きだというだけだ。
刈宿さんは一瞬、言葉の真偽を確かめるような鋭い視線を送ったけれど、すぐににこっと、いつもの華やかな笑顔になった。
「じゃあ、今度はパンのおいしい店を探すよ」
「いえ、お気づかいなく……」
「また誘ったら迷惑かな?」
一臣さんの言葉がまた脳裏をよぎる。
言えたらいいのに。
だけど、なにを?
私たちは宙ぶらりんだ。すべての前提だった“結婚”を保留にしてしまった今、なんのために一緒にいるのか説明できない。
だけど離れるという選択肢も、お互いの口からは出ない。
目の前に横たわっている問題は、時間が解決してくれるものではないのに。
答えあぐねる私に、刈宿さんは軽やかに肩をすくめてみせた。
「すぐに断られなかったってことを、心の拠り所にするよ」
私はただ、あいまいな笑顔を返した。