【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「自分でも驚くほど腹立たしいな」
「すみません……」
「花恋が謝ることじゃない。店はどんな?」
「くだけたフレンチでした。感じがよく、おいしかったです」
彼は鞄をぶら下げた手で腕組みをし、「じゃあこっちは和食にでもするか」とつぶやき、リビングのほうへ廊下を歩きだした。
「こっち?」
自室にバッグを放りこみ、追いかける。
彼はそのままリビングに入り、ライトをつけると、ソファに鞄を投げて、自身も乱暴に腰を下ろした。
なにか用意しようとキッチンで手を洗う私を、無言の手招きで呼び寄せる。
「近々、きみと食事をしようと思ってた」
「毎日してますよね」
「そういうのじゃなく」
隣に座ると、彼の手が私の頭の上を通り、背もたれに乗せられた。一瞬、肩を抱かれるのかと期待してしまった。違った。
一臣さんはまっすぐ前を見つめたまま話す。
「連休が明けたら、きみが俺のアシスタントになってちょうど一年だ」
あ。頭の中に、ちょうど食事のとき、刈宿さんに話した過去が再生される。年度のはじめだったなという記憶はあるけれど。
「……忘れてました」
「俺はおぼえてた。去年のカレンダーを見たら書いてあった」
それは、はたして“おぼえていた”というのか? だけど一臣さんが得意げなので、指摘はしないでおく。
私は力を抜いて、ソファに身体を沈めた。
「どうして私を拾ってくださったんです?」
「俺は、適材が適所にいないのは組織の損失だと思ってる」
「企画部署に配属するという方法も」
彼はこちらを見て、「なんだ」と意味ありげに眉をあげた。
「なにか、それっぽいことでも言ったほうがいいか?」
「それっぽいこと?」
「きみを見初めたから、手元に置きたかったんだ、とか」
らしくない、気取った台詞につい吹き出してしまう。
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