【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「いやー、もうみんなモメントネイティブ世代で、視野広いし頭柔らかいし、末恐ろしかったですよ。あんな新人がいたらグループも安泰ですわ」
「それは頼もしいですね」
「そうだ、本体で耳にしたんですけど、近々大きな組織変更があるとか?」
おっと……。
私はうかつなことを口走らないよう、口をつぐんだ。
福原さんが「広報部って、そういう情報に関しては最下流だったりするんですよねー」と嘆く。
「プレスリリースだけ出してろみたいな。でもまさか刈宿CMOが本体の役員に選ばれるなんて! まずは諏訪COOかと思ってましたよ」
聞いた情報を咀嚼するのに、数歩ぶんの時間を要した。
「え……?」

席に駆け戻ったけれど、一臣さんはいなかった。
特に予定は入っていない時間だ。社内のどこかにはいるはず。
午後の打ち合わせで一臣さんと刈宿さんが顔を合わせる。それまでに一度、彼と話をしておきたかった。
オフィスエリアにはいなかった。エレベーターのほうへ行くと、ビル共有部の給湯室やベンダーマシンルームがある。
そのあたりかもしれないと廊下をうろうろ歩き、ガラス張りの小部屋を通りすぎたところで、数歩戻った。
いた。しかも刈宿さんと一緒だ。
ふたりがいるのが、絶対にそこにはいないだろうと考えていた場所だったので、私は呆然としていた。喫煙ルームだ。
外にいる私には気づかず、ふたりはなにかを話している。険しい顔の一臣さんと、うっすら微笑み、口の端に煙草をくわえている刈宿さん。
立ち入れる雰囲気ではなく、まごついたとき、派手な物音が聞こえた。一臣さんがスタンドテーブルを拳で殴りつけたのだ。
私は驚愕し、気づいたときには喫煙ルームのドアを開けていた。
ふたりがいっせいにこちらを見る。
「あっ……」
「おや、左藤くん」
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