【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
歓迎の声を投げたのは刈宿さんだ。一臣さんはなにか言おうと口を開け、すぐに閉じた。おそらく「花恋」と呼びかけてやめたに違いない。
「……すみません、失礼します」
今さらあと戻りもできず、と室内に入り、背後でドアを閉めた。
刈宿さんが指に煙草を挟み、目配せをする。
「レディの前だけど、このままで失礼」
「話はまだ終わってませんよ、刈宿さん」
「そう怖い顔をするもんじゃないよ、諏訪くん。ぼくに出し抜かれたのがそんなに屈辱かい?」
「汚い手で平然と人を出し抜く人間と、同じ会社にいることが苦痛ですね」
ふたりは小さな丸いスタンドテーブルを挟んで立っている。一臣さんが会社でここまで怒りをあらわにしているのは、はじめてだ。
ははっと刈宿さんが明るく笑った。
「自分が気を抜いてたことが許せないんだろう? こそこそと同棲なんて楽しんでるからだよ。お気の毒さま」
私は息をのみ、一臣さんと顔を見あわせた。
どうして知っているんだろう。私が口をすべらせた? あの食事のとき?
あれは、さぐりを入れるためのものだった?
血の気が引いていく中、なにを話したか思い出そうとしても、出てこない。
ああ、ごめんなさい、一臣さん……。
一臣さんが、刈宿さんをにらみつける。
「プライベートは関係ないでしょう」
「ぼくもそう願うが。きみが隙だらけだったのは事実だと思うんだけどね」
ぎりっと歯噛みする音が聞こえるようだった。
刈宿さんが煙草の箱のふたを開け、一臣さんに差し出した。一臣さんは無言で首を振る。
くすっと笑い、刈宿さんはその箱を上着の内側にしまった。
それから吸っていた煙草を、テーブルの中央の灰皿に押しつける。
「ともかく、本体が選んだのはこのぼくだ。きみが成長させてくれたサービスは、向こうでさらに発展させてみせるよ、ご心配なく」
「卑怯な手段で手に入れた道は、儚いですよ」
「道?」
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