【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
それぞれの本音
「一臣さん」
声をかけても、デスクについた彼はじっと考えこんだまま反応しない。
もう一度呼んでもだめだったので、私は席を立ち、彼の肩をそっと揺すった。
「一臣さん、着信です」
「え」
はっと顔を上げ、彼は状況に気づいたようだった。デスクの上のスマホに急いで手を伸ばし、画面を確認する。
「すまない、ありがとう」
席に戻る途中、「諏訪です」と聞こえた声は、少し硬かった。
「……なにか難しいお話ですか」
短い通話を終えた彼が、また思考の沼に戻ってしまう前に、私は声をかけた。
長かった連休が明け、5月。
内示こそ出ていないものの、刈宿さんの栄転はすでに社内のだれもが知るところとなり、あれこれ憶測を呼んでいる。
今回ほど、自分が噂話のネットワークを持たないことを不甲斐なく感じたことはない。一臣さんがどう言われていても、反論しようもない。
『いや、耳に入れないのも大事ですよ』
昼休み、そうなぐさめてくれたのは福原さんだ。
『うちは部署がら、噂が集中するんで。いろいろ聞こえてくるんですけど』
『どんな話が多いですか』
ランチをしに入ったカフェで、うーんと顔をしかめた。
『正直、左藤さんに聞かせたくないなあってものもあります。諏訪さん、あの若さで、しかもパスウェイから来てあのポジションなんで、やっぱり嫉妬されてたんですね』
『そうなんでしょうね……』
『でも諏訪さんを応援する声も多いです。基本、出回るのは悪口ですから、社内感情としては諏訪さんの味方のほうが圧倒的に多いと思いますよ』
そう言ってはくれたものの、一臣さんの置かれた状況を考えると、胸が痛いどころではない。