或る会長の独断
部室に会長が入ってきたところで、今の僕である。
会長が口を開こうとする前に、二村くんがガチガチになった口を一生懸命開いて「すみませんでした」と囁いた。
二村くんグッジョブ!
お前はよくがんばったよ!
僕だったら絶対言えなかった。会長は謝罪できるような空気を一切放っていないからだ。


「あなただけが悪いわけではないからね」


会長の年齢の割に幼い声が、部室と僕の脳天に響いた。
その言葉は同時に、僕と湯川くんを指し示す言葉になる。
湯川くんの方をちらっと横目で見ると、湯川くんは下を向いて小さくなり、今から叱られる事を理解し、完全に説教モードに入っていた。
二村くんはまだ動けないでいる。僕がしっかりせねば!


「ここは何をするサークルなのかしら?」


部室を見渡した後に、視線を僕に向け会長は言った。
あぁ母さん、僕はなぜ今こんな可愛らしい女性に怯えているのでしょうか?
もう僕は二十歳の誕生日をとうに迎え、成人しているのに、なぜ女のひとりやふたりけちらせないのでしょうか?
あぁ母さん。


僕はふるさとの母親を思った。「軽音楽です」
さぁ、なぜ僕は同じ年齢の彼女に敬語を使ってしまったのでしょうか。
それほどまでに、僕の緊張は冷や汗と同時に思考回路をギリギリまで停止させてしまったのだ。メガネのズレすらどうでもよくなるほどに。
「気分転換に外で体を動かすことは大いに結構です」
会長は、よくわかってらっしゃる。そうなのだ、我々は音楽は好きだが、ずっとそればかりでは、さすがに体がおかしくなってしまうもの、などと少しばかりほっとしたのもつかの間、鬼はやはり鬼だった。
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