「悪」が似合わない君と。
ふわっと香る甘い爽やかな香り
壊れてしまいそうなくらい小さくて細くて柔らかいトンボ
こんな風にトンボを抱きとめたのは2回目だ
あの時もそうだった
椅子から落ちそうになったトンボをキャッチした
まるで小さい子供がトンボを捕まえたみたいな感覚だった
でもそれは…
俺にはちょっと
珍しいトンボすぎたみたいだ
目を見開いて硬直しているトンボに声をかける
「おいトンボ?」
ハッとして俺を見上げた
!!
その角度からその顔でこっちを見るのは…
あんまりよくない…
至近距離で俺を見上げる形になっている
……
仮にもあのトンボメガネかけてない状態でそれをやんな…
ゔっと何かを飲み込む
「…お前鈍臭すぎだろ」
俺の言葉にキョトンとしている
あんまりにも間抜けな顔を見ているとじわじわくる
あれだよ『ジワる』ってやつ
ふふ
思わず笑いをこぼした
「す、すみません」
トンボがスルッと俺から離れた
スゥーッと冷たい風が胸に当たる
さっきまで抱えていた柔らかいものがなくなっただけでやけに冷える
思わずトンボを見た
…そんなに早く離れなくてよかったのに
「どうかしました?」
!!
「え?あ、あぁなんでもない」
…いやいやいやいや!
なに考えてんの俺!きもいきもい!!
はぁ夜でよかった
いま俺おそらく相当変な顔してるだろう
「あ、じゃ、じゃあ私帰りますね」
は?
「送るて」
「え?」
「こんな夜に女一人で帰せないだろ普通」
いやいやいや、普通そうだろ
ましてや今のお前の格好見てみなよ
そこら辺の男なら放っておかないだろ
「ほら行くぞ」
「は、はい」