「悪」が似合わない君と。




「あの、リュードーさん」


物思いにふけっているとトンボが俺を見上げていた


「…なに?」


「今日も喧嘩をしてたんですか?」



単刀直入だな


まあ…間違ってはないか



「んー…ま、そうかな」


今日は比較的早く終わったし

ほとんど俺は何にもしてない


「喧嘩…怖くないんですか?」



思わぬトンボの一言に驚いた


…怖くないのか…か


「…怖いよ。殴られたら痛いし、喧嘩は嫌いだ」


そう、喧嘩は嫌いだ

暴力なんてクソ親父と同じことしてる自分が大嫌い

でも、だから


「なぜだか負けられないんだよ。俺についてきてくれる人のためにも、自分のためにも。」


こんなのただの言い訳だ

わかってる…

足掻いてるだけだよ…底辺で



「でも俺の取り柄ってそれくらいだからな。喧嘩で負けたことないって…俺にとったらなんの自慢にもならないけど。
そうじゃないやつらがいるんだよ」

なんでトンボ相手にこんなにスラスラと言葉が出てくるのかわからない

でもきっと…俺は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない

喧嘩でしか自分を表現できないんじゃなくて


言葉で…


俺自身のことを…


「リュードーさんの取り柄はそんなことじゃないです。」


は?


唐突の言葉にびっくりしてトンボを見た


「誰かのために必死になれるとことか、さりげないけど当然のような優しさとか私はいっぱい知ってます」


…トンボ


あんまりにも真面目な顔で言うもんだから…


柄にもなくむず痒い


「もちろん浜田さんたちも知ってますよ。ただ喧嘩に強いだけだったらみんなリュードーさんに付いて行こうとは思いません。

不器用な優しさや、力だけじゃない本当の強さを知ってるからみんなあなたを慕うんです。
もちろん、私も」



俺をまっすぐに見つめるトンボ

不器用な優しさ、力だけじゃない強さ…

こんな言葉をもらったのは初めてだった

トンボは俺にいろんなものをくれる



「私はリュードーさんの優しくて強くて仲間思いなところがあなたの取り柄だと思いますよ」



!!



そういったトンボは花が飛んでるんじゃないかってくらい綺麗に笑った



はあ…頼むからこれ以上…



< 168 / 321 >

この作品をシェア

pagetop