「悪」が似合わない君と。


「トンボ…」


不意に呼ばれてビクッと動く


「心臓…うるさいぞ」


「…人のこと言えませんよね」


しんとする部屋


二人の心臓の音だけが重なったりズレたりして耳に響く


伝えてしまおうか


あなたが好きですと


言えてしまえばどれだけ楽になるだろうか


このうるさい心臓もマシになるだろうか


リュードーさんは私のこと、どう思っているんだろう


嫌われてはないと思うけど…


こんな体制で、心臓をやかましくしていれば


少し期待してしまう自分がいる


それでも言い出せないのは


私が弱いからだ


怖いから…もしも、この関係が壊れてしまったら…


それを考えると少したじろいてしまう


私はこの人に触れることを許されなくなってしまうかもしれない


それが怖かった


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