庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
プロローグ
どうしてこんな事態になってしまったのだろう。昨日までは二人で笑顔で、胸を高鳴らせながらこの扉を開けることを想像していたのに……。
それなのに、今の状況はまったくもって真逆。
笑顔は若干引きつり気味で、胸は罪悪感からチクチクと痛い。今私の隣に立つ彼も、一緒に来るはずだった彼氏の遥斗とは真逆のタイプで、遥斗より高い身長に高級そうなスーツに身を包んでいる。
今から私の大好きな両親を騙そうとしているのに、動揺のどの字も見えない涼しい顔。しかも昔より断然イケメンになっていて驚いた。
「とりあえず、ここは笑って」
ホテルの入口で怖気づく私に、彼が昔と変わらない口調で言う。
「わ、わかってる。でも……」
「こんなことしていいのかって思ってるんだろう? 嘘とか下手そうだし、そもそもついたこともなさそうだもんな」
やけに色っぽい唇の端をわずかにあげ、意地悪な口調で言う。しかもそれがあまりにも図星をついていて反論できない。
「うだうだ考えたところで、今さら引き返せないだろ。後は俺に任せろ。椎花は隣で頷いていればいいから」
そう言って彼は私の手を強引に取ると、中で待つ両親の元へと歩き始めた。
生まれてこのかた、両親に嘘をついたことなんてないのに。こんなはずじゃなかったのに……。
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