庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
「小原さんに招待状いただきましたけど、契約結婚を祝う気ないんで」
今まで気が付かなかったがどうやら私たちの後ろの席にいたらしい。恨めしそうな目つきでこっちを見ながら同じ日替わり定食を食べている。
「ど、どうして景山くんがここに?」
「小原さんたちだけがここの常連じゃないんですよ」
ぶすっとしながらそう言う景山くんに、たじたじになる。
だけどそれもそうか。ここは会社からも近いし、なにせごはんのおかわり無料。若い男の子にとってはなにかと好都合。しかし今まで遭遇しなかっただけに驚いたな。
いったいどこから話を聞いていたのだろう。
「あら、椎花の可愛い花嫁姿見なくていいの?」
からかうように彩子が景山くんに話しかける。慌てて止めるが、バトルのゴングはすでに鳴っていたようで、景山くんが冷めた口調で反論してくる。
「えぇ結構です。共犯者になりたくないんで。しかも男性二人が揉めたとか最悪じゃないですか」
しっかり聞かれているし。しかも輪をかけて誤解されている。影山くんの頭の中ではきっと私は、最低な尻軽女に違いない。とはいえ、今ここで慌てて言い訳してもきっと信じてくれないだろう。
「あーわかった。見たら泣いちゃうかもしれないから出席したくないんでしょ。居酒屋の時みたいにさぁ」
「泣いていませんから。話を盛るのやめてもらえます?」
もう二人ともなにムキになってんのよ。他のお客さんからも注目されつつあって、なぜか私がぺこぺこと頭を下げ謝る。
「だいたい俺は反対です。そんな結婚幸せになれるはずがありません」
「反対って、君椎花のなに?」
ツッコんだ後、ケラケラと笑う彩子。影山くんな顔は益々不機嫌になっていくし。
もう、なんでこうなるかなぁ。
「ただの後輩ですけど、小原さんのことは自分が入社したころから好きでしたので、身を売るような結婚が許せないだけです」
ここでそんなこと言う? 驚きすぎて口がぽかんとしてしまう。
しかも他の常連さん達もニヤニヤと見ていて、端のほうからは「よく言ったお兄ちゃん!」なんていう囃し立てるような声も聞こえる。
もうなにこれ。恥ずかしくて明日から来づらいじゃない。