庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


「森永ホールディングスって知ってるわよね? 私はそこの社長の姪なの。叔父は私と千晃さんを随分前から結婚させたがっていた。会社の繁栄のためにね」

 森永ホールディングス。この名前を知らない人はいないかもしれない。酒類事業、IT事業、不動産事業など、たくさんの子会社が傘下にあって、国内で最も有名な持株会社だ。

「私は千晃さんのこと、とても良い方だと思っているし、結婚してもいいと思っていた。叔父の為にもなるし。でも千晃さんは会社のために結婚する気はないといってお断りしてきたわ。真面目でストイックな方ですものね。政略結婚みたいな真似、したくなかったのね。でも叔父自身が千晃さんの人柄に入れ込んじゃって、今でも私たちを結婚させようと彼を口説いているみたい。叔父は諦めが悪いから」

 つまり千晃くんは私と結婚して、その政略結婚から逃れたかった。そういうこと?

 じゃあ千晃くんが今まで言ってくれた言葉はどれも嘘だったってことなのだろうか。大切にするって、守るって言ってくれたあれも全部嘘? 

 そこでハッとした。そういえば私、千晃くんに「好きだ」って言ったもらったことがない。甘い言葉はたくさんもらったけど、肝心なそれだけは言われていないことに気が付いた。

「私とあなた、どちらと結婚するほうが彼にとって最善かわかるわよね? 森永ホールディングスの傘下に入ればこの会社は瞬く間に大きくなる。千晃さんのご実家の会社にとっても有利」

 淡々とまるで感情がないロボットのように話す彼女を前に、情けないくらいに足が震えている。頭がどんどん真っ白になっていく。

 悔しいけど言い返す言葉が見つからない。だって私にはなにもないから。地位も名誉も、財産だって。


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