庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
「小原さん。帰ったんじゃなかったんですか?」
「あ、うん……ちょっと」
「あの人、高宮さんと一緒に居た人ですよね? なにか言われたんですか?」
カツカツとヒールを鳴らし、遠ざかっていく彼女を凝視しながら冷静な口調で言う。
「大丈夫。なんでもないから」
ふうっと息を吐き背筋を伸ばす。だけど景山くんはまだ心配げに見ている。
「ごめん、ありがとう。私、帰るね」
「そんな青白い顔して、大丈夫じゃないでしょ。高宮さんに連絡したほうがいいんじゃないですか? 社内にいるんですよね。俺、見つけてきましょうか?」
「いい、やめて」
思わず激しく否定してしまった。益々おかしいと思われてしまいそう。だけど今はそんな余裕なかった。
彼女の言葉が頭から離れない。耳の奥で彼女のあざ笑う声が耳鳴りのように響いている。
「本当に大丈夫だから」
「とりあえず、下まで送ります」
そう言って景山くんは会社のビルを出るまでついてきた。もう拒む気力もなかった。
会社を出たところで自分が泣いていることに気が付いた。彼の顔を思い出せば思い出すほど、止めどなく溢れてくる。
私は愛されていたわけじゃなかった。きっとタイミング良く現れた、ただの隠れ蓑に過ぎなかったんだ。
もうなにも考えられなくて、ただ呆然と彷徨うように街中を歩いていた。