庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
「この期におよんでおめでたい人ね。もしかして今から千晃さんと会うの?」
「はい」
そう答えると三条さんの口元がひくつくのが見えた。
「彼、来ないと思うわよ。急ぎの仕事ができたって言っていたから」
「そんなはずはないです。約束しましたので」
すぐに否定すると、チッと舌打ちしてきそうな顔をされた。
きっと私が抵抗してくることが計算外だったのだろう。しっぽを巻いて逃げるとでも思っていたのだろうから。
でもそうはいかない。例え三条さんから報復を受けたって構わない。
後に起こるかもしれないことに怯えて、目の前の現実から逃げたくない。
「私は千晃くんが好きです。あなたになにを言われたってこの気持ちは変わりません。結婚の報告だって彼の口から聞くまで信じませんから」
きっと私を待ってくれているって信じている。例え彼女と結婚するのが事実でも、彼が適当に誤魔化して逃げるような真似するはずがない。
行かなくちゃ。彼のところへ。
するとどこからともなくパチパチと拍手をするような音が聞こえてきた。辺りをキョロキョロと見渡せば、こっちに向かってくるスーツ姿の男性がいた。
「さすがです、仔猫ちゃん。いや、椎花さん」
笑顔でそう言うのは桜庭さん。どうして彼がここに? とキョトンとする私の傍らで、三条さんが「桜庭専務」と言って、怯える様に後ずさるのを目の端で捉えた。