庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


「お迎えにあがりました、椎花さん」

 それはつまり、千晃くんは私を待ってくれているってこと? ホッと安堵の溜息が零れる。

「ところで三条さん、あなたがどうしてここに?」

 突然鋭い視線に変わった桜庭さんが、三条さんに問いかける。

「え、と……その」
「相変わらず人を陥れることが好きみたいですね。だけれど、彼女はあなたに屈する様な方じゃありませんよ」

 桜庭さんがうんざりした様子で、メタルフレームの眼鏡を指であげる。いったいどういうことなんだろう。

「わかったのなら、ここからすぐに去りなさい」

 桜庭さんが一喝すると、三条さんは私をじっと睨みつけた後、待たせていた車へと戻って行った。

「大丈夫ですか? 椎花さん」

 彼女の背中を呆然と見ていると、桜庭さんが穏やかな顔で私を覗き込んできた。慌てて、「はい」と頷く。

「うちの三条が失礼なことを。大変申し訳ありません」
「いえ、そんな。桜庭さんが謝ることでは」
「社員の不祥事は私の責任です」

 そう言って深々と頭を下げる。そんな桜庭さんに慌ててやめてくださいと言って頭を上げてもらった。

「しかし、椎花さんがそんなに強い方とは思いませんでした。あの強気な三条を撃退するとは」
「え?」
「彼女、ちょっと曲者でして。今日も嫌な予感がしていたので早めにお迎えにきました。だけれど椎花さんのほうが一枚上手でしたね」

 おかしそうに笑う桜庭さんを前に、一気に脱力感が襲う。なんだかよくわからないけれど、うまく回避できたってこと?


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