庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


「じゃあまたね。椎花」

 食事を済ませホテルを出ると、母が私の手を握りしめ言った。

 このニ時間、ほぼ母の独壇場だった。こんなにもテンションが高い母を見るのはいつぶりだろう。お兄ちゃんの結婚式でもここまでなかったのに。

「体に気をつけるのよ」
「うん。今日は来てくれてありがとう」
「なに言ってるの。今日はいい報告が聞けて嬉しかった。椎花の花嫁姿見られる日を楽しみにしてるね」

 目元に皺をよせ本当に嬉しそうに言う。その顔を見たら胸が苦しくなった。
 
 きっとお母さんたちが望む花嫁姿は見せられない。すぐに結婚はなしになったと、悪い報告をしなければいけないと思う……。

「千晃くん、ふつつかな娘ですが、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 今度は千晃くんの手をとり、母が何度も頭を下げていた。あぁ私って親不孝だな……。
 
 今まで反抗期らしい反抗期もなく、お兄ちゃんみたいに両親を心配させたり、泣かしたりすることはなかった。だから尚更心苦しくなる。

 普段大人しくて、真面目なペットから突然咬みつかれたらショックなのと同じで、本当のことを知ったら立ち直れないんじゃないか……。

「あとこれ、よかったら召し上がってください。ご近所の方にもよろしくお伝えください」

 落ち込んでいると、どこからともなく母に手土産を渡す千晃くん。思い切り目を丸くしてしまう。

 いつの間にそんなものを用意したんだ? どんだけ気が利く人なんだろう。



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