庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
第九章 涙と笑顔のウエディング
うららかな春の日差しの中。私は今日、大好きな人と結婚する。
「椎花~、まじで綺麗だぁ」
そんな穏やかな気持ちを一気に引き裂いた、控室に響き渡る号泣する兄の声。私が身支度している間中ずっとこれだ。
「お前があいつのとこへ嫁いでも、椎花はいつまでも俺の可愛い妹だぁ~」
嗚咽を上げながら泣くお兄ちゃん。大袈裟な、と周囲からは呆れたようなため息が聞こえる。
お兄ちゃんのシスコンは今に始まったわけではない。私が物心ついたときからこの調子で、私に近づく敵、それは男性から小さな蟻まで多岐に及び、よく言えば守ってくれた。
時には鬱陶しいこともあったけれど、こんなお兄ちゃんも私の大好きな家族。
「桜太、いい加減にしなさいよ。椎花ちゃん困ってるでしょ?」
着物を優雅に着こなすお兄ちゃんのお嫁さん、香澄さんが私にすがりつくお兄ちゃんを容赦なく引きはがす。
香澄さんはお兄ちゃんより4つ年上で、姉さん女房というやつ。こんなお兄ちゃんにはしっかりものの香澄さんがお似合いだと、結婚当初から二人の関係を羨ましく思っていた。
「ごめんねー、椎花ちゃん。バカな兄で」
「いえ、慣れていますので」
苦笑いを零すと鏡の前に座る私にお母さんが近づいてきた。
「椎花、綺麗。無事にこの日を迎えられてよかった」
母の顔に優しい皺が寄る。その顔を見ていると、お母さんを悲しませずに済んでよかったと心から思う。