庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
「ゆっくり、いこうね」
私の隣に立つお父さんにそう声をかけると、お父さんが静かに頷いた。
お父さんの腕にそっと手を絡ませる。
その瞬間、涙がこみ上げてくる。
お父さんの手、こんなに細かった? 肩幅だってこんなに小さかっただろうか。
「ねぇ、お父さん。小さかった頃、この腕でいつも抱っこしてくれたよね。肩車だって、よくしてくれていたの覚えているよ」
家族想いで、休日は必ず遊びにつれて行ってくれた優しくて穏やかなお父さんと、料理上手で明るいお母さん。活発で、家族のムードメーカーのお兄ちゃん。みんな昔から大好き。きっと結婚してもこの気持ちだけは変わらない。お父さんの娘だということも。
「お父さん、今までありがとう」
精一杯の感謝を込め伝える。それと同時に、目の前の扉が開いた。
光が差し込むチャペルにはたくさんの人たちが私たちを待ってくれていた。そして千晃くんが優しい笑顔でこっちを見つめている。
お母さんに後ろから支えられながら、お父さんが一歩足を踏み出す。その一歩がどれだけ辛くて大変なものか、お父さんの額に滲む汗を見ていると分かった。
もうこの時、涙が止まらなくなっていた。
数年前、お父さんは私とこの場所を歩くことが夢だと言った。
きっとその時既に、お父さんは自分の病気に薄々気がついていたのだろう。
今までたいした親孝行もしてこなかった。だけれどお父さんはどんな時も私の味方でいてくれた。
上京したいと打ち明けた時、止めるお母さんを説得してくれたのもお父さんだった。
だから私はいつも自分の信じた道を選ぶことができた。お父さんが私を信じてくれたから。
……ありがとう、お父さん。