庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


 それからお父さんも桃を膝に乗せたり、抱っこをしたりしていた。もちろんお母さんが傍で支えていたけれど。お父さんの顔はすごく幸せそうだった。
 
 もうあまり話すこともできないけれどその目には薄ら涙が浮かんでいたように思えた。

 するとお母さんがソファでくつろぐ私たちに突然こんなことを言った。

「椎花、たまは千晃くんと二人でデートでもしてきたら?」
「え?」
「ずっと二人だけで頑張って来たんでしょ? 本当は私がそっちに行って手伝ってあげたかったけど、できなかったから」
「え、でも……」

 お父さんのほうに自然と目が行く。お母さんが桃を抱きしめたまま言った。

「私、一度でいいから孫を預かってみたかったのよ~。だから心置きなくいってらっしゃい」

 私が気にしないように、めい一杯明るく言ってくれているんだろう。

 だけれどちょっと嬉しかった。お母さんの言う通り、この10か月毎日がドタバタで、ゆっくり買い物に行くことも、美容院に行くこともしていないから。

「お言葉に甘える?」
 
 隣に座っていた千晃くんが私を覗き込む。

「うん……そうだね。ちょっと懐かしい町並みを見てこようかな」

 そう言うと千晃くんが私の手をとった。

「お母さんありがとう、すぐ帰ってくるから」
「いいわよ。気にせずゆっくりしてらっしゃい」

 お母さんの笑顔に見送られ、家を後にすると、あてもなく歩いた。



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