庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
「でも今更別れたとか言ったら、悲しむんじゃないの? 椎花の花嫁姿見たいんだろ?」
「それはそうだけれど……」
「俺もお前と同じで、お前の両親を傷つけるのは気が引ける。昔散々世話になったし」
千晃くんはカップを手に取ると、その中に映る自分をどこか寂しげに見つめ、静かに語った。
「うちの両親は仕事人間で、全然家にいなかっただろ? 参観日やお遊戯会、学校行事にはほとんど来たことがない。運動会で担任と飯食うことがどんだけ寂しいか。そんな多忙な両親に代わって、椎花の両親が俺を桜太や椎花と同じように扱ってくれた。写真を撮ってくれたり、ビデオ撮ってくれたり。遠足の弁当を作ってくれた時は本当に嬉しかった。だから感謝してるんだ」
「千晃くん……」
彼の両親は経営者ということもあり、家を空けることが多かった。だから千晃くんはうちによく来ていたんだっけ。うちの両親も当たり前のように夕飯を作っていたし、夏休みはよく泊りにも来ていた。
楽しかった思い出に上書きされ、寂しい過去があったことをすっかり忘れていた。それに千晃くんがうちの両親に対してそんな想いを抱いていたなんて、考えもしなかった。
「だから椎花を守る義務があると勝手に思ってる」
それを聞いて、あぁだからなのかと思った。今日の言動の理由はそういうことだったんだ。