庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす

「椎花と彩子さんは、入社のときから?」

 千晃くんの質問に、彩子がはい! と張り切って答える。

「椎花っておっとりしてるし、トロイところあるから、最初は絶対合わないって思ってたんです」
「ちょっと、さっきから私の悪口ひどくない?」
「悪口じゃないし。褒めてんのよ」

 どこがよ。調子がいいんだから。

「研修のときだったかな。ディスカッションのグループが一緒で、それがきっかけでよく話すようになって」

 彩子の第一印象はなんて男っぽい人なんだろう、だった。さっぱりした物言いで、なんでもちゃきちゃきと進めていく。グループをあっという間にまとめてくれたのを思い出す。

「私ってこういうタイプの子と気が合うんだーって、この年になって気が付きました」

 手振り身振りで大袈裟に話す彩子に、千晃くんがうんうんと頷いている。

「自分とは真逆のタイプの友達のほうが、案外気が合ったりするよね。椎花の兄の桜太も、椎花と同じでおっとりしてて、バカ正直で。俺とはむしろ真逆なんだけど、今でも仲が良かったりするよ」

 確かに二人は真逆のタイプかもしれない。小学校のときも、いたずらを実行するのはお兄ちゃんで、手を下さず、指令だけして傍観するのが千晃くんといった具合だった。だからお兄ちゃんはよく先生や親に怒られていたっけ。
 
 しかも千晃くんはお兄ちゃんに比べてすごくモテた。よく手紙の橋渡しもしていたし、バレンタインのときなんかも、甘いものが苦手な千晃くんの代わりに、お兄ちゃんが食べていたの思い出す。プライドというものがないのかと、幼ながらに思ったりもした。

 だけどそんな二人を見ていておもしろかった。不器用でへたれな家来体質の兄と、なんでも卒なく器用にこなしてしまう王子のような千晃くん。ある意味近所でも名物コンビだったと思う。


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