庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
「今はいないよ」
キラキラと乙女のように目を光らせる彩子の前で、千晃くんが落ち着いた口調で答えた。彩子の表情はぱぁっと花が咲いたように笑顔になる。あなたを狙っていますというのがばればれだ。
「そうなんですね! よかった」
はぁ~なんて溜息吐いて意味深な発言をする彩子。なんていうか、お勉強になる。押しては引いて、最後はとどめはささず、意味深な言葉だけ残してさっと引く。これが肉食系女子の技か。
こんなにアピールされて、千晃くんはどう思っているんだろう。もしこのまま彩子と千晃くんが付き合うことになったら、どうなるんだろう。私はここにはいられないだろうし、彩子に毎日のようにのろけを聞かされるのかな。
そんな想像をしていると、なぜか胸の奥がヒリつくのを感じた。これはなんだろう……。
「椎花」
ぼんやりとスープの中に視線を落としていると、前から千晃くんが私の名前を呼んだ。ハッとして顔をあげると、彼の手が伸びてくるところだった。
「口元、ついてる」
「え?」
キョトンとしているうちに、あっという間にそれは千晃くんの手で拭い取られ、しかもあろうことかそれをぱくっと食べてしまった。カァッと一瞬にして顔に熱が集まる。
「まったく、子供かよ」
しかもどこか満足げにクスクスと笑っている。
な、にこれ! 彩子の前で恥ずかしいんですけど! 子供じゃないんだから!
内心あたふたしながら、恐る恐る隣を見る。するとそこには無表情で私を見つめる彩子がいて、ヒーッと心の中で雄叫びが上がった。