庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
きっとこれはいつも私を子ども扱いしていた昔からの癖で、なんの意味もないというか、親猿が子猿のノミをとるようなもので……。
って、なぜか心の中で必死に否定する自分がいることに気が付く。
すると、そんな私の心中を知る由もない千晃くんが、しっとりした口調でワイングラスを回しながら言った。
「起業したばかりで大事な時期だから、彼女を作る余裕はないかな」
目を伏せる仕草がやけに妖艶で、つい今まであたふたしていたのに、今度は違う胸のざわつきが襲っていた。
昔の千晃くんじゃないことは重々わかっていたつもりなのに。一緒に蛙を追い回していたあの頃の千晃くんとは違って当たり前なのに。優しさと強さを兼ね備えた大人の男なんだってことを目の当たりにすると、途端にむず痒いような、寂しいような気持ちになる。直視できなくなった私は席を立った。
「椎花? どうかした?」
「千晃くん、そろそろオーブンの中いいよね?」
タイミングよく、オーブンからラザニアが焼けた合図が聞こえてきて、キッチンへと向かう。
「いいと思うけど、熱いから気をつけろよ」
「うん、大丈夫」
ミトンを手につけ、いい香りが漂うオーブンを開けると一気に蒸気が襲う。思わず目をしかめながらそれを取り出すと、シンクに置いた。
その後方では彩子と千晃くんがなにか話しているようだった。彩子のやつまだ粘っているのかな。