庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
side千晃
「飼い猫が朝起きたら懐で眠ってたんだが、どう思う?」
出社して30分。窓辺に立ち忙しく行き交う人や車を眺めながら背後に立つ男に尋ねる。
朝のあのアクシデントを一人で処理できず、あれこれ考えた挙句ついに口に出してしまった。
「それは最近飼い始めた仔猫のことですか?」
「あぁ」
「さっそく懐かれましたか。さすが社長」
何がおかしかったのか、くくっと喉を鳴らし笑う。そしてさらに部下の桜庭は続けた。
「すっかり家族だと思われているんでしょうね。いいことではないですか」
一番言われたくないことを言われ、足元がグラッと揺れた気がした。
俺から腕を引っ張り引き寄せたとはいえ、椎花は怒ることなく、嫌じゃなかったとも言っていた。それはどういうことなのかと考えていたが、やっぱり椎花にとって俺は家族枠で、それ以上でもそれ以下でもないということなのだろう。
わかってはいたけれど、客観的に言われるともう認めるしかない。
「で、可愛いんですか? その仔猫ちゃんは」
コツッと靴を鳴らし、意味ありげな口ぶりで近づいてくる。
この男、桜庭とは実家の会社にいるときからの付き合いだが、クライアントだろうが、社員だろうが、俺だろうがズバッと本音を言うような奴。今時の男にしては潔く、裏表のないこいつの性格を買って地元から連れてきた。
だがたまに毒舌すぎて俺も本気で傷つくことがある。ミイラ取りがミイラになったようなそんな心境だ。