庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
◇
病院に着いたのは夕方だった。総合案内で病室を聞き、一気に駆け出す。聞けばICUなどではなく一般の病室で少し安心した。
教えてもらった七階の病棟に着くとすぐ、廊下をうろうろするお兄ちゃんの姿が目に入った。
「お兄ちゃん!」
その声にお兄ちゃんが驚いたように駆け寄ってきた。
「椎花? お前わざわざ来たのか」
「うん。それで、お父さんは?」
「今眠ってる。それよりお前携帯は? なんで繋がんないんだよ。それに母さんに聞いたけれど、千晃と結婚するって本気で言ってんのか?」
兄がまくしたてるようにあれこれ聞いてくる。無理もないと思う。だけど今は説明している暇はない。私は興奮するお兄ちゃんを押しのけ病室へと入った。
中はシーンと静まり返っていて、ピピピと電子音だけが響いている。ツンと鼻をつく薬液の匂いがして、心臓が早鐘を打ち始める。
そろりと仕切られたカーテンを開けると、そこには呼吸器をつけたお父さんがいて、息が止まりそうになった。顔は血の気がなく、腕にはたくさんの点滴。その姿に一気に目頭が熱くなる。