庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす

 でも確かにそうだ。お父さんの病気は進行を遅らせることはできても、根治することはない。弱っていくのをただ黙って見ているしかないんだ。

 最初担当の先生から告知された時は、なんて残酷なんだって思った。何日も泣いて、受け入れるまで時間がかかった。

「……わかった。帰るよ。でもその前に話させて」

 そう言うとお母さんは黙って頷いた。

「お父さん、椎花だよ。辛かったね」

 話しかけながらお父さんの手に触れると、決壊したように涙が頬を伝う。

 大きくてごつごつしたお父さんの手。小さいころ、よく繋いで歩いたよね。椎花と桜太が世界で一番好きだって言ってくれて、いつもこの手で撫でてくれたよね。

「お父さん、まだまだ元気でいてよ。私とバージンロードを歩くのが夢だって言ってたじゃない」

 暫くその場でお父さんの手を握りしめたまま泣いた。いつも気丈な母もこの時ばかりは、鼻をすすっていた。
 
 きっとお父さんはもうそんなに長くない。もしかすると最後の時に会えないかもしれない。

 そんな悪い予感がしてならなかった。


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