庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


「椎花、お父さんは? 大丈夫?」

 息を切らす千晃くん。本当に来てくれたんだ。

「命に別状はないって……」
「そっか、それならよかった」

 はぁと大きく息を吐きながら、膝に手を当て前かがみになる。そんな千晃くんを見て心からホッとするのを感じていた。さっきまで不安で押しつぶされそうだったのに。嘘みたい……。

「椎花、大変だったな」

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、千晃くんがよしよしと優しく私の髪を撫でる。それだけでまた涙が溢れそうになった。

「きっと元気になるよ。信じよう、お父さんを」

 喉の奥から熱いものが込み上げてきて、声にならずただこくこくと頷く。励ましの言葉がこんなにも胸に響くなんて思わなかった。本当にそうなるような気さえしてきた。

 それは千晃くんだから? 

「千晃? お前まで来たのか」

 そこに車を取りに行っていたお兄ちゃんが戻ってきた。千晃くんの姿を見て驚いている。

「あぁ、桜太」
「易々と来れる距離じゃないだろ」
「椎花が心配だったから。でももうこのまま連れて帰るよ」

 そう言って、千晃くんが私の手を取り握る。あまりに自然すぎて、戸惑ってしまう。

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