庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


「お兄ちゃん、私帰るね」

 言いながら千晃くんの隣に並ぶと、半ばやけになったお兄ちゃんがはいはいと言って追い払う仕草をする。

「千晃に嫌なことされたら言えよ? すぐ駆けつけるから」
「うん、わかった」

 頷きながら微笑むと、お兄ちゃんが、チェッとふて腐れた様に頭を掻いた。相変わらず無邪気な兄だ。だけど会えてよかった。


 お兄ちゃんに見送られ、病院を後にする。どのタイミングで離していいのかわからず、タクシーの中でも手は繋がれたまま。お兄ちゃんに対しての演技にしては長いような……。

「お父さん、病気だったんだな」

 繋がれた手をチラチラと見ていると、前を見つめたまま千晃くんが小さく言った。

「うん……ごめんね、話してなくて」
「いや、椎花が結婚したがってた本当の理由がわかってよかった」

 そう言った後、握られた手にギュッと力がこもるのを感じた。千晃くん……?

「帰ってゆっくり話そう。家のことも、これからのことも」

 いつになく真面目な声色。隣に視線を上げれば、涼しげな横顔があった。

 そうだ、ちゃんとしなきゃ。いつまでも甘えてちゃいけない。この結婚ごっこだって、ちゃんと終わらせなきゃ。千晃くんだって彼女を作るに作れない。

 気持ちの整理をつけなくちゃ。家にたどり着くまでに……。

 そんなことを考えながら、わかったと頷いた。


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