庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


「追いかけようか? まだ間に合うかもしれない」

 突然の申し出に驚いて、えっ!? っと大きな声が上がる。しかもすでに駆けて行こうとしていて、私は慌てて止めた。

「いいです! 本当に大丈夫なので。そこまでしていただくわけには」

 犯人ともみ合って、怪我でもしたらそれこそ大変だ。

「後で被害届、出しますから」

 そう言うと男性はハッとし、駆け出しそうな勢いを止め、それもそうだなと呟いた。

「追うなんてそんな荒っぽいことするより、防犯カメラで犯人を割り出してもらうほうが手っ取り早いか」

 冷静な口調で言いながら犯人が逃げて行ったほうを見つめる男性。その発言にコクコクと一人頷いた後、ふと彼の背中を見て思った。

 この人、よく見ると背が高くて、手足がスラリと長くてモデルさんみたいだ。それなのに肩幅ががっちりしていて男らしい体型。ちょっと素敵かも。なんて、緊急事態の時ですらそんなことを考えてしまっている自分にちょっと呆れていると、彼が振り返った。なんとなくバツが悪くて慌てて俯く。

「家どこ? まだ近くに犯人がいるかもしれないし、送るよ」

 優しくそう言う彼をチラッと見ると、私に視線を落とし、柔らかく微笑んでいる。ドキリとした。その顔があまりにも優しくて素敵だったから。一般人でこんなにかっこいい人がいるんだ。

 どこかで会ったことがあるような気もするけれど、気のせいかな?

「いえ……お気持ちだけでけっこうです」

 首を振りながらやんわりお断りする。赤の他人にそこまでしてもらうわけにはいかない。



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