庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


「あの、声をかけてくださってありがとうございました。それじゃあ私急ぎますので」

 そう言って、ホテルに向かうため踏み出した。

「待って」 

 だけどどういうわけか、腕を掴まれ阻まれた。思わず後退る。

「勘違いだったら申し訳なんだけどさ」

 何を思ったのか、男性は私を自分の傍まで引き寄せると、じっと見つめてきた。その顔はさっきまでの優しい表情とは打って変わって、真顔。

 あれ? もしかして、この顔……。

「椎花? そうだよな? 俺だよ、千晃。お前の兄貴の友達の」

 そこまで聞いて、あーっ! と大きな声が上がった。今初めて正面から顔を見て気がついた。かなり大人っぽくなったし、雰囲気が変わったけれど、彼は幼馴染の千晃くんだ!

 どこかで見たことがあるような気がしていたのは、そのせいだったんだ。

「どうしてここに? 上京してきたの?」

 千晃くんと言えば、お兄ちゃんの悪友で私にとっても幼馴染。地元ではちょっとした有名人の高宮千晃だ。

 まさかこんなところで会うなんて思わなかった。

「こっちで起業したんだ。少し前からこっちにいる」
「えっ! じゃあ大学卒業してすぐ起業したってこと?」
「まぁそんなとこ」
「わぁ!すごい! ていうことは社長? 大学の時に会ったのが最後だから、4、5年ぶりだよね?」

 嬉しくて思わずは質問攻めしてしまう。

 やっぱり地元の友達に会うのは嬉しい。東京暮らしには慣れたつもりだし、それなりに友達はいるけれど、同じ水を飲んで育った同郷の友達は別格の存在。
 
 彼とは歳は三つ違うけど、幼稚園から大学までずっと一緒だった。だけど就職を機にその腐れ縁はほどなくして切れた。

 私は東京で、彼は実家の仕事を継ぐということで大学卒業後も地元に残っていた。だからまさかの再会につい嬉しくなる。


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