庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす



「どうした? ぼんやりして」

 その声にハッとして顔を上げる。そこには首を傾げる千晃くんの顔があって慌てて「なんでもない」とかぶりを振った。

 いけない、景山くんの発言が頭から離れなくて、食事中だというのにぼんやりしてしまった。

 千晃くんはなんかあった? と優しく聞いてくるけど、後輩に告白されて、しかも千晃くんを挑発するようなことを言っていたなんて、口が裂けても言えない。

「あの、ごはん、どうかな?」

 誤魔化すように話をすり替える。

「おいしいよ。椎花は料理上手だよな」
「そんなことないよ。それに千晃くんだって料理できるじゃない」
「できるっていってもいつも肉切って焼くらいだし。こんな凝った和食は無理」

 千晃くんは小さくかぶりを振ったあと、再び煮つけに手を付ける。

 今日の食卓は自分でもびっくりするほど茶色系が多い。並べ終わって一人で「お見事だ」と呟いたくらい。それもこれも、茶色のおかずはおいしいのよ、とお母さんが昔から口癖のように言っていたからだろう。

「この炊き込みご飯も手作り?」
「うんそうだよ」
「へ~すごいな」

 そう言って口いっぱいに頬張る姿は少し無邪気で、自然と笑みが零れる。いつも口に合わなかったらどうしようと、ドキドキしながら作っているだけに、この顔を見るとホッとする。

 それにいつもと変わらない様子で安心した。昨夜のことを昼近くまで悶々と考えていたのはきっと私だけだったんだろうなと思うと、ちょっと恥ずかしくなる。 

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