庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
「何言ってるんだよ。去年のお前の兄貴の結婚式で話しただろう」
え? そうだっけ?
確かにお兄ちゃんが去年地元で挙げた結婚式に来ていたことは知っている。けれど話をした記憶はない。
だってあの千晃様だから。いつもどこへ行っても女の子が放っておかない。常に誰かに囲まれていて、簡単に近寄れなかった。
でも無理もないと思う。イケメンで、しかも地元じゃ有名企業の御曹司。
みんな千晃様のお嫁さんになりたくて、お兄ちゃんの結婚式ではお兄ちゃんを祝うことより、千晃様にアタックするほうが忙しそうだったと、後日出席していた友達から聞いた。
「椎花は相変わらずだな。だいたいひったくりにあうってどんだけドンくさいだよ」
「だって……こんな昼間に、ひったくりが出るなんて思わなかったし、それにちょっと色々あってボーっとしてたから……」
「色々って?」
彼が首を傾げ私を覗き込む。それだけで心臓に悪い。こんな綺麗な顔を向けられたら、いくら知った仲でもドキドキしてしまう。
「ううん、なんでもない」
慌ててかぶりを振る。口が裂けても言えない。きっとバカにするに決まってるんだ。
「なんでもなくないだろ。そんなめかしこんで、なにか大事な用事があったんじゃないの?」
今度は上から下までなぞるように観察され、体が一気に液体窒素でもかけられたように硬直した。
昔はよく兄を交え一緒に遊んだ仲だ。ほぼ毎日家にも来ていたし、一緒に遊園地や動物園になんかにも行っていたりした。
でも今はお互い大人になって、あの頃と何もかもが違う。彼の中で私は今も小学生の妹のような感じなのかもしれないが、そんな視線で見つめられたら、普通に恥ずかしいし照れてしまう。