庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
◇
その日の夜。
千晃くんが帰ってきてすぐ、キッチンで野菜を刻む私に、嬉しそうに近づいてきた。
「ただいま」
「あ、おかえり千晃くん」
「うまくいきそうだよ」
そしてなんの前触れもなくそう切り出した。
「え? それってもしかして今日のプレゼンのこと?」
思わず声を弾ませる私に、千晃くんが顔をほころばせながら頷いて見せた。
「まだはっきり結果がでたわけじゃないけど、ほぼ決まった」
「本当に? よかったね千晃くん! 絶対うまくいくって思ってたよ!」
自分のことのように嬉しくなって、スーツの上着を脱ごうとしていた千晃くんの手を取り、その場でぴょんぴょんとジャンプする。千晃くんは驚いきながらも、すぐに私の手を握り返し「ありがとう」と柔らかく微笑んだ。
やっぱり千晃くんはすごい。夢を現実にする力を持っている。諦めない、ストイックな精神力を見習いたい。
「乾杯しなきゃね。あ、でもなにも用意してない」
「いいよ、そんなの」
「でも」
「椎花が夕食用意してくれてるんだろ? それだけで十分」
湯気のあがる鍋を私越しに見つめ、鼻をスンスンとさせ香りを嗅ぐ。今日は寒いから暖かい豚汁に、お魚を焼く予定だ。
「だけど、驚いたよ。プレゼン前に椎花が現れるんだから」
「そうなの? そんな風には見えなかったけど」
「内心すごくびっくりしてた」
そう言われても真実味がない。だってあの時の千晃くんは全然動揺していなかったし、まるで来るのを知っていたかのような態度だったから。