庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす



 その日の夜。

 千晃くんが帰ってきてすぐ、キッチンで野菜を刻む私に、嬉しそうに近づいてきた。

「ただいま」
「あ、おかえり千晃くん」
「うまくいきそうだよ」

そしてなんの前触れもなくそう切り出した。

「え? それってもしかして今日のプレゼンのこと?」

 思わず声を弾ませる私に、千晃くんが顔をほころばせながら頷いて見せた。

「まだはっきり結果がでたわけじゃないけど、ほぼ決まった」
「本当に? よかったね千晃くん! 絶対うまくいくって思ってたよ!」

 自分のことのように嬉しくなって、スーツの上着を脱ごうとしていた千晃くんの手を取り、その場でぴょんぴょんとジャンプする。千晃くんは驚いきながらも、すぐに私の手を握り返し「ありがとう」と柔らかく微笑んだ。

 やっぱり千晃くんはすごい。夢を現実にする力を持っている。諦めない、ストイックな精神力を見習いたい。

「乾杯しなきゃね。あ、でもなにも用意してない」
「いいよ、そんなの」
「でも」
「椎花が夕食用意してくれてるんだろ? それだけで十分」

 湯気のあがる鍋を私越しに見つめ、鼻をスンスンとさせ香りを嗅ぐ。今日は寒いから暖かい豚汁に、お魚を焼く予定だ。

「だけど、驚いたよ。プレゼン前に椎花が現れるんだから」
「そうなの? そんな風には見えなかったけど」
「内心すごくびっくりしてた」

 そう言われても真実味がない。だってあの時の千晃くんは全然動揺していなかったし、まるで来るのを知っていたかのような態度だったから。


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