庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす



「そういえば大事なこと言いそびれてた」

 食事中、千晃くんが突然思い出したように口を開いた。いまだぼんやりとしていた私は、その声に箸を止め「どうしたの?」と聞き返した。

「警察から連絡があったんだった。ひったくられたバッグ、見つかったって」
「え? 本当?」
「あぁ。でも財布やスマホは見つからないみたい。バッグだけが近くに捨てられてたって。たぶん椎花のじゃないかって。警察署で預かってくれてるみたいだけど見に行ける?」
「うん、じゃあ明日仕事終わったら行ってみる」

 すっかり忘れていた。まさか今更になって見つかるなんて思いもしなかった。

 お陰で財布もスマホもなにもかも新調した。出費がかさんでしまったけど、今では心機一転でよかったと思っている。それにそのおかげで千晃くんに再会できたわけだし。

「一人で大丈夫? ついて行ってあげたいんだけど明日はちょっと立て込んでて」
「ううん、大丈夫だよ」

 そんなことで千晃くんの手を煩わせるわけにはいかない。心配かけないようにしなきゃ。

「それにしても早いな。あの事件から三か月もたつなんて」

 千晃くんがしみじみとした口調で言う。確かにあっという間で、怒涛の三か月だった。だけど今ではすっかりこの家にも慣れたし、結婚の準備も順調に進んでいる。
 
 夫婦になる実感はまだないけれど、きっと今と同様うまくやっていけるはず。

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