優等生の恋愛事情
◇今、どうしていますか?
7月、期末テストの最終日。


「ハイそこまで。答案を後ろから前へ――」


先生の声がチャイムの音に重なって、テストの終わりをようやく告げる。

ぐったりと机に突っ伏す人、
席を立って大きく伸びをしてる人。

テストの終わりを喜ぶ声、
できなかったと嘆く声。

さっきまでの緊張感が一気にとけて、教室いっぱいに解放感があふれ出す。


「ねえねえ、溝口(みぞぐち)~」


駆け寄ってきたのは
同じクラスの池澤晴(いけざわはる)
晴だからハルピン。

親友の呼びかけに私も調子を合わせてこたえてみる。


「なになに、ハルピーン」

「期末も終わったし、あとはもう夏休みを待つばかりだよ!」

「ハルピン。テストってね、やって終わりじゃなくて点数ついて返ってくるんだよ?」

「あんた、そういうの“無粋”とか“野暮”って言うんだよ。現国で習ったばっかじゃん」

「ごめんごめん」

(そりゃそうだよね……)

今はただこの解放感に浸っていたい。
面倒なことは後回しにして、
楽しいことだけ考えていたい。

例えばそう、
高校に入って初めての夏休みのこととか。


「んで、いよいよ夏ですねってことで。溝口も一緒に行こう!ねっ!楽しいよ~、きっと」

「だから、行かないってば」


このやりとりを何度繰り返してきたんだろ。

ハルピンが誘っているのは、
海でも山でもなければ
プールでも遊園地でもカラオケでもない。


「頑なだなぁ、溝口は。親友がこんなに熱心に誘ってるっていうのにさ」

「予備校の勧誘はもうお腹いっぱいだよ」

「つーれーなーいー」

「夏期講習、そんなに楽しみなんだ?」

「はあ?」

ハルピンが「今さら何を?」と不適に笑う。

「このアタシが勉強のために夏講行くと思って?」

「不純も不真面目もそこまで堂々としていると清々しいね……」

夏だもんね。夏休みだもんね。
勉強以外で高校生が
夏期講習に行く目的はただひとつ。

「出会いを求めて?」

「いえーっす!そのとおり!」

(まあ、ハルピンの気持ちもわからなくはないんだけど)
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