優等生の恋愛事情
正直、可愛かったかどうかとか、あまり記憶になかったりする。

聡美さんと仲がいいんだなぁとは思ったけど。


「おまえ何? 印象に残ってないわけ?」

「まあ、ありていに言えば……」

「はあー、溝口さんしか眼中にねえって話な」

「いいだろ、別に……」

「ま、いいけどよ」


ロクちゃんはガハハと笑った。


「八代、何か言ってた?」

「うんにゃ。なんで?」

「まあ、たいした話じゃないんだけど――」


僕は夏祭りでのことをロクちゃんにさらっと話した。

瀬野さんの容姿については特に印象に残っていないけど、ふたりのぎこちなさは覚えている。

正確には、それを気にかけていた聡美さんのことが印象に残ってるって話。


「あいつ、良くも悪くもカタいからなぁ」


苦笑いのロクちゃんに僕も同意する。


「真面目だよね、八代って」

「だあな。野郎ばっかのときは普通にぶざけたりするけど。女子とチャラチャラできるタイプじゃねえもんな」

「モテるのにね」

「あー、だから余計に気ぃ張ってるとこあんのかもな」


(モテるから気を張るって……???)


「それってどういう意味?」

「八代も体育会系だからさ。いろいろと気ぃ遣うことあんだろうなって話」

「ふーん」


僕がいまいちピンとこないでいると、ロクちゃんは具体的に説明した。


「あのな、中学のとき弓道部はそれほどでもなかったかもしんねえけど。基本的に運動部って上下関係厳しかったり、いろんなしがらみ多かったりするだろ?」

「まあそれはね」

「しかも俺ら男子校だろ? だから、部活も含めて、友達連中にからかわれるのは、ほんと勘弁とか思うわけだよ」

「ふーん」


わかるけど、わからないような?

いや、それは結局わかっていないということか。


「おまえ、まだピンと来ねえって顔してんな」


呆れるロクちゃんに、僕は「だってさぁ」と疑問をぶつけた。


「別に言わせておけばよくない? そりゃあ彼女が一緒にからかわれたりするのは絶対嫌だけど。自分が冷やかされたり当てこすりを言われるくらい許容範囲じゃないの?」

「あー、おまえはそうな」

「なんだよそれ?」

「泰然自若っつうの? おまえのそういうとこ、まじで尊敬するわ。あ、皮肉や嫌味じゃないぜ?」

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